新聞報道で見る開戦前夜~12/1から12/4まで

日本海軍の真珠湾攻撃は、絶対秘匿の中の秘匿であり、その事実は海軍軍令部の中でも一部が知るのみでした。当然の如く、日本政府が対米開戦を決意した事実を、言論機関や一般の民間人は知る由もありません。そんな中で、新聞報道は当時の日本と国際社会の動きをどう伝えたのでしょうか? 当時発行された朝日新聞の紙面を通じてご紹介します。

12月1日

この日の朝日新聞一面トップを飾るのは、『日満華三国締盟一周年』という記事です。日本と、汪兆銘首席を代表とする中華民国政府が日華基本条約を結んで一年、この二国に満州国を加えた三国が同盟を結んだ日から一周年という記念すべき日に、帝国ホテルで友好国を交えた祝賀会が開催されたと報じています。

そこには三国の外務大臣をはじめ、同盟国のドイツ・イタリアの各駐日大使、並びにスペイン、ルーマニア、デンマーク、ハンガリーといった枢軸国側の大使も顔をそろえ、いかにその祝賀行事が盛況であったか、短い文章からでも伝わってきます。

これに関連する記事が、『米、架空の原則固執 興亜聖業を妨害 外相、鉄の団結を強調』です。興亜聖業とは、日本が東アジア政策として掲げた大東亜新秩序の建設事業を意味します。

記事によれば、日本政府の東郷茂徳外相はあいさつの中で、「米国は、東アジアの現実を直視せず、非現実的な原則(ハルノート)を持ち出して日本の大東亜新秩序建設を妨害しようとしている」と述べたとうです。

新聞では日米交渉が行き詰まり、両国が抜き差しならぬ状態にあると伝えていますが、このときすでにハルノートを最後通牒とみなした日本政府が対米戦争を決意し、連合艦隊空母機動部隊は択捉島単冠湾を出撃、一路真珠湾を目指して猛進していたのです。

12月2日

この日の朝日新聞一面トップは、『英、ビルマに軍隊集結 泰(タイ)侵略の重大形勢 泰の中立危殆に瀕す』という記事。日米交渉の先行きを危ぶみ、ビルマ・インド方面におけるイギリス軍の慌ただしい動きを報道しています。

周辺に散らばっていたイギリス将校たちがビルマに参集し、インドやマレーからも増派を受けるかたちでビルマのイギリス軍が増強されるなど、仏印インドシナやイギリス支配権の緊迫した情勢がうかがえます。タイは当時、英仏の緩衝地帯として名目上の独立を保っていましたが、記事では「イギリスの諜報機関がタイ国でさかんに日本侵略論をばらまき、反日運動を策動している」と伝え、イギリス側の動きをけん制、トゲのある筆致が印象的です。

また、同じ一面下段に、『米空軍基地増設 南北太平洋に着々進捗』という見出しが出ています。米政府の発表を伝えるもので、南太平洋のクリスマス島やフィジー島、ニューカレドニア島、サモア島などの英仏領で空軍基地の建設計画が進行中であるとし、その一部はすでに完成済みとのこと。さらにアメリカは、アラスカやアリューシャン列島の基地建設も増強していく計画である、と伝え、米軍の動きに朝日新聞が神経をとがらせている雰囲気が伝わってきます。

12月3日

「ニイタカヤマノボレ」の作戦決行命令が機動部隊に出された翌日の3日、朝日新聞夕刊では、野村・来栖両日米大使がハル米国務長官と懸案事項について討議したニュースを伝えています。隣の記事の見出し『紛争回避になお希望』の言葉も、結果を分かっている我々が見ればむなしく映るだけですが。

一面中段には、情勢の悪化に伴い、国内と周辺地域が次第に緊迫していく様子が伝わる記事が並びます。日米交渉を担当するハル国務長官が、日本大使と会談を重ねながら、公式・非公式問わずイギリス大使と頻繁に連絡を取り合う模様は、戦争の足音の接近を感じさせる慌ただしさです。記事でそのイギリス大使は、ハル長官以外にも、ルーズベルト大統領およびウェルズ国務次官補とも会談を繰り返し、意見を交わした事実を明らかにしています。

その記事の下には、『龍田丸の引き揚げ 船客約三百名』という小さな見出しで、在米邦人のアメリカ引き揚げが進んでいるとする一報があります。日米開戦に備えた緊急処置であることは言うまでもありません。

3日朝刊一面のトップ記事は、『ABCD陣営の妄動 今や対日攻勢化す 言われなき泰国への圧迫』と出ています。アメリカ・イギリス・オランダ・国民党蒋介石政府の対日威嚇政策を激しく非難する内容です。アメリカは日米交渉を行いながら、イギリスと協力して東南アジアにおける軍備体制を強化し、なおかつ中立国であるタイに大軍を派遣して日本に挑発をしかけている、としています。朝日新聞は知らなかったかもしれませんが、この日から5日後に海軍が真珠湾基地を攻撃し、陸軍がマレー上陸作戦を開始することになるのです。

12月4日

『米、英自治領使用 両国間に諒解成立』。これはニューヨークタイムズの記事を引用するもので、つまりアメリカが英領であるオーストラリアおよびニュージーランドの空軍施設ならびに給油施設の提供を受けることで、イギリス側の諒解を得たと伝えるニュース。イギリスとアメリカは、日本の先制攻撃があるとすれば必ず南方方面がそのターゲットになると睨んでいました。記事は、米英両国の見解を裏書きするものと言えるでしょう。

『堀切チアノ会談 帝国の決意を表明』。堀切イタリア大使とチアノ外相がローマで会談を行ったとの内容。これがニュースとなるのは、堀切氏が同盟国のイタリアに対し、対米戦争にかける日本側の意気込みを公式に宣言したからです。日本のイタリア大使が外務大臣と会談するのは、日米交渉が始まって以来初めてと伝え、何かが動き出していることを暗に含ませているかのような書きぶりです。

『英系船総引き揚げか 上海英米勢力いよいよ完絶』。記事で、上海ではイギリスやアメリカ人の本国引き上げが加速していると伝えています。日本と米英が干戈を交えれば、租界区に戦禍が及ぶのは避けられません。上海はすでに、日本軍と中国軍の軍事衝突(第一次・第二次上海事変)で二度、戦火に見舞われた過去がありますが、日米・日英戦争ともなればその被害は物理的なものだけでなく、経済にも大打撃を与えると予想されていました。

一面上段左には、「軍需品を満載しシンガポール着の米船」とのキャプションが付いた大きな写真が掲載されています。イギリス支配下にあるシンガポールの港に、米国船とおぼしき巨大な船が停泊し、その前をマレー系のイギリス兵が歩いている写真です。ゴムの輸出が盛んなマレーは、米国にとっても重要な貿易相手国でした。米国が日本の南方進出にあれだけ激しく反発したのも、こうした経済的事情による面が小さくないと言えるでしょう。

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